西新に新しくできた町、百道浜はよかトピア通りの向こう側、こちら側の古い町の住民としてはちょっと、なんとなく悔しいのですが、とてもきれいな町です。朝早く自宅から、夕方は事務所から、よくこの町を通って海まで散歩します。ミラー・ニジンスキーに会いに。
事務所の前の道に出ると真正面に見える福岡タワーを目指して、西南学院の大学チャペル(建て替わる前はランキンチャペルでした)を右に。左に元寇防塁跡を見てよかトピア通りまで出ます。信号を渡ると百道浜。元のももち海岸を埋め立ててできた新しい街です。今や福岡市のシンボルとなった福岡タワーは、アジア太平洋博覧会の際にモニュメントとして建てられたランドマークで、鋭角的な三角柱がまっすぐ天に向かって伸びています。
右に博物館、左に総合図書館を見てまっすぐ福岡タワーに向かって歩けば7、8分ほど、角にぶつかる前に回避してタワーの後ろに回ると、博多湾を見晴るかす低い展望台があります。野外ステージになりそうな円形の広場になっていて、自撮りの観光客が絶えない場所です。目前に能古島、その向こうに博多湾を片手で抱くように長い砂州が伸びて、その先が志賀島です。現在、湾内はフェリーや旅客船、貨物船が行き交ってにぎやかですが、遠い昔、あの島影に異国の船の襲来をみとめて恐怖したこともあったでしょう。もっとずっと昔には、神功皇后が半島に向けて船出したり・・・ゴジラがランドマークを踏み潰しながら上陸したり、半島を出た朝鮮軍が侵攻したりと、博多湾はなんにつけてもドラマティックな海です。
展望台を降りると人工の松原と白浜が伸びています。ほんの数百メートルくらい東に行けば樋井川の河口、最初の交差点に架かるのは、ホテルヒルトンやペイペイドーム、九州医療センターが立ち並ぶ向こう岸につながる大きな橋。その次に架かる橋が、目的の「ふれあい橋」です。
2階建ての橋は人が行き交うための橋で、2階はオープンデッキ、1階は修道院の回廊を思わすようなアーチ型の壁と円柱、洋風の鋳物の鉄柵、橋脚に丸く突き出たデッキなどロマンティックな橋です。ベンチに腰掛けたお年寄りの男女が座り語り合っている様子は、映画の1シーン。夕暮れ時のここからの眺めはとてもきれいで、舳先を海に向けたような形のホテルヒルトンに金色の光が反射し、その遙か上空を博多湾から入ってくる飛行機が横切り、ニジンスキーがそれに向かって高く跳ねて片手をグーンと突き出す。ベンチに座って見上げているといつまでも飽きません。
橋の両端に対になって跳ぶミラー・ニジンンスキー(だからミラーなのだそうです)。バリー・フラナガンという英国の彫刻家による野ウサギの彫刻です。ロシアの伝説的バレエダンサーのニジンスキーが高く跳躍した一瞬をウサギに擬したもので、実際、跳んだ瞬間に魔法をかけてウサギに変えたんじゃないかと思うほど躍動的な姿です。同じ英国でも、ピーターラビットなどとはおよそ違って可愛くないウサギさん。
フラナガンの作品は、福岡市美術館の玄関口にもあり、「三日月と鐘の上を跳ぶ野うさぎ」という題名の大きなブロンズ像です。フラナガンは野ウサギをテーマにした彫刻がいくつもあって、ボクシングをするウサギやボールの上に立って蹴るウサギ、石の上に座って考えるウサギ、団扇太鼓(のような楽器)を叩くウサギなどいずれも手足がやたらと長くやせっぽっちで、ユーモラスで擬人的す。彼に会うのが、散歩の最終目的。
「元気? ニジンスキーさん」